「働く」と「住む」と斜めの壁
それぞれデザイン関係のお仕事をされているご夫婦。 美術館や大きな公園なども近いエリアで、築35年、62㎡の中古マンションをフルリノベーションしました。
特徴的な斜め壁で一つの空間を仕切り、玄関土間にワークスペースを設えた空間は、コロナ禍の自粛でご夫婦ともにリモートワークになった状況でも、「働く」と「住む」の両方を楽しめる家になっています。
夫婦2人のリモートワークに対応できるワークスペース
――長方形の空間の中央に斜めの壁が走り、LDKと水まわり・寝室のゾーンを仕切っていますが、間取りとしては完全に閉じた部屋がないワンルーム状態ですね。
【ご主人】プランは「働く」と「住む」の関係性をテーマとして考えていきました。2人とも会社員なのですが、私が個人でもデザインの仕事をしているので、家で仕事をすることも多く、デザインを考えたり、家で製品の撮影をしたりする機会もあります。
ワークスペースは必要だったのですが、完全に分けてしまうのではなく、お互いの気配がなんとなくわかる程度に、ゆるくつながっているといいなと思っていました。
このプランは、設計者の松島潤平さんから4つの方向性を提案してもらった中で、一番思い切ったアイデアを形にしたものでしたが、私たちにはこれがしっくりきました。
ダイニング、キッチン、寝室、ワークスペースなど、私たちが生活する上で必要なエリアをそれぞれ十分な広さで確保できる案でした。
バルコニー側のソファスペースに向けて緩やかに空間が狭くなっていくことで、壁を隔てた反対にある寝室スペースを広く確保できることができ、私たちの要望をすべて叶えてくれるプランでした。
――ご主人のワークスペースは、玄関土間の一角にあるデスクや収納をつくり付けているコーナーですね。奥さまも家で仕事をすることはありますか?
【奥さま】入居は2019年末ですが、引っ越してからすぐにコロナ禍の自粛で、私もほぼリモートワークになり、2人とも家で仕事をしています。私のワークスペースはカウンターテーブルの一角です。
ハイスツールで仕事をしているので、ふとしたときに外の公園の緑が見えるところが気に入っています。
夫とオンライン会議が重なることもあるのですが、距離が離れているので、お互いの話し声が気になる、ということはほとんどありません。以前の家だったら厳しい状況になっていたと思います。
【ご主人】玄関土間に横並びでデスクを並べて、2人分のワークスペースをつくるという案もあったのですが、オンライン会議などが日常的になった今の状況を考えると、隣どうしではなく、少し距離を保てる場所にワークスペースを配置した今のプランでよかったと感じています。
用途に合わせて分けられた空間を二つの世界観で表現
――LDKは淡いグレーが基調で明るい雰囲気。斜めの壁の向こう側の通路と水まわりは、照明も控えめで落ち着いたプライベートゾーン。完全に分かれていなくても、世界観がまるで違いますね。
【ご主人】パブリックゾーンとプライベートゾーンは、機能的に明確に分かれていて、視覚的にも明暗でその違いが分かるようデザインに落とし込んでいただきました。
基本は斜め壁の仕上げであるモルタルのグレーに合わせて、壁、天井、床の仕上げを決めていきました。ディテールのパーツは、パブリックゾーンは真鍮、プライベートゾーンは黒のスチールを選んでいます。
床は玄関土間に使っているような磁器質タイルにしたかったのですが、予算的に難しく代替としてグレーのフロアタイルに。目地ができるだけ目立たないものを採用しました。
【奥さま】予算調整で、磁器質タイルからフロアタイルになりましたが、プレーンでニュートラルな印象になって、居心地や暮らしやすさとしてはこちらのほうがよかったかもしれません。気を使わなくていいし、掃除も楽で気に入っています。
――床について、フローリングという選択肢はなかったのですか?
【ご主人】フローリングははじめから考えていませんでした。家具やプロダクトが好きなので、それが引き立つ空間にしたかったことと、家だからといってほっこりしすぎるというよりは、店舗のような心地よい緊張感もある空間にしたいと考えていました。
特に、二人でこだわってセレクトした照明は、空間の主役になっていると感じています。フローリングではなく、床や壁を無機質なものにしたことがよかったのかなと思います。
――置き家具のセンスの良さはもちろんですが、キッチンカウンターやソファ、玄関の棚などつくり付けの造作家具もしっくりと馴染んでいますね。
【ご主人】造作家具もとても気に入っています。これらの家具は、設計者の松島さんからの提案で、合板が中心となっています。最初は合板と聞いて、安っぽくならないか少し不安に感じましたが、完成したものを見て、クオリティの高さに驚きました。
木目の方向なども美しく整っていて、バランスが素晴らしいです。モルタルの壁面についている扉も合板ですが、木目が少し透けるようにグレーで塗装してあり、世界観を壊すことなく馴染んでいます。開閉時の滑りもなめらかで、機能性にも優れていてとても快適です。
チェアを移動すれば多彩な居心地。たくさんの余白を楽しめる空間
――リモートワークになって、お二人とも家で仕事をされているとのことですが、仕事以外の時間はどんな風に過ごしていますか?
【奥さま】仕事の合間などに、リビングのソファでくつろぐ時間が好きですね。このソファは約2mの幅があり、ひとりでも二人でもくつろげるサイズでつくってもらいました。窓際の明るい場所にあり、とてもリラックスできます。
【ご主人】ソファでもくつろぎますが、余白がたくさんあるので、スツールを移動させていろいろな場所で過ごしています。場所を変えるだけで光の感じ方や窓の外の景色も変わります。一つの空間に複数の居場所があることで、家にいる時間が長くても、心地よく暮らすことができています。
【奥さま】バルコニー側の窓辺は、玄関土間と同じ磁器質タイルにしています。ここはインナーテラスのように植物の手入れをする場所として使っています。
もともと前の家に住んでいた時から植物はあったのですが、この場所を設けたことでさらに植物が増え、私たちの趣味の一つになっています。
仕事の合間に水をやったり、休日には土の手入れをしたり、ステイホーム中の良い気分転換になっています。
――今後、手を加えていきたいところ、検討していることなどはありますか?
【ご主人】余白の面積が広いので、大きめのラウンジチェアを置きたいと考えています。ダイニングチェアも変えたいし、家具は急いで買い揃えるというよりは気長に気にいるモノを探しています。
すでにDIYで家具を造作した部分もあります。本が収まり切らなかったので、ワークスペースとLDKの間に腰高程度の本棚をつくりました。既製品のボックスを並べて、外側に合板を貼った簡単なDIYです。
合板を造作家具の色味に合わせることで、違和感なく空間に馴染み、ちょっとした仕切りにもなって良い感じです。
――最後にリノベーションをしてみて、またリビタのリノサポのサービスを経験していかがでしたか?
【ご主人】リビタのコンサルタントの井上さんは、疑問点などに丁寧に答えてくれて、とても信頼できる存在でした。コンサルタントがすべての窓口で、設計は設計者と打ち合わせして、といった役割分担も明確でわかりやすかったです。
施主である私たち、設計者、コンサルタントの三者の視点からいろいろな意見を出して、さまざまな角度からチェックできたので安心感がありました。
【奥さま】私たちのリクエストを設計者の松島さんが、上手くまとめ上げてくれたことも嬉しかったです。
松島さんとの初めての打ち合わせでは、少し遠慮してしまい、伝えきれなかった希望があったのですが、打ち合わせ終了後すぐにコンサルタントの井上さんが電話をくれて、言い残したことを丁寧に拾い上げてくれました。
そういったきめ細かいケアが満足度の高いリノベーションにつながっていると思います。
文:村田保子/撮影:古末拓也
取材・撮影:2020年8月
間取り、プラン
- 専有面積: 62.29㎡
- 間取り: ワンルーム
- 既存建物竣工年: 1984年
- リノベーション竣工年: 2019年
玄関を入ると正面に短手方向いっぱいに玄関土間が続く。窓際の一角にはL字にデスクがつくり付けられたご主人のワークスペース。長方形の空間の中心が斜めの壁で仕切られ、LDKと寝室・水まわりに分かれているが、寝室とLDKの間仕切りは胸の高さ程度の壁。トイレ、風呂を除き、すべての空間は完全に閉じずに、ゆるやかにつながっている。
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