【連載小説】理想じゃない恋のはじめ方。(第6話)

仕事も恋愛も理想通りに叶えてきたアラサーOL、高杉 汐里。 信頼していた恋人に裏切られ、自分の存在価値を見失う汐里。そんな時、幼馴染と偶然再会した汐里だったが… 仕事も恋愛も一生懸命に頑張っている大人女性に贈る、オリジナル恋愛小説。(第6話)

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【連載小説】理想じゃない恋のはじめ方。(第6話)
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あいのさくら

ライター

ヘアスタイリストとして働く傍ら、オリジナル小説を執筆。恋愛を中心に幅広いジャンルを書いています。書籍化経験あり。読者の方に共感して頂けるようなストーリー作りを心掛けています。

理想じゃない恋のはじめ方。(第6話)

【これまでのあらすじ】

大和は自分の理想とは違うから、最近やたらとドキドキするのは気のせいだと思い込む汐里。

ある日、職場でのストレス発散に大和が週末デートに連れ出してくれることに。連れてきてくれた水族館で大和に「好きだよ」と告白され…

前回はこちら▼

理想じゃない恋のはじめ方。(第5話)

第1話はこちら▼

理想じゃない恋のはじめ方。(第1話)

告白

告白

「好きだよ」

大和の告白は、耳元で優しく響いた。

胸がドキドキする。

だけど、予想外の展開に頭の中が真っ白になる。

「大和、私は……」

「分かってる。しおちゃんにとって俺は弟みたいなもんでしょ」

そう。昔からずっと大和は弟だった。

そんな弟に、ここ最近はドキドキしたり動揺したりして心を揺さぶられている。

だけど、この気持ちが「好き」なのかと問われたら、正直分からない。

「別に答えを求めてるわけじゃないから」

「そうなの?」

「ほら、今のは気持ちを抑えきれずに言ってしまったというか……事故みたいなもんで」

「事故?」

「そうだよ、しおちゃんが可愛すぎて事故に遭っただけ」

何だ、それは……。

どうリアクションをとったらいいのか分からず、感情が迷子になる。

「とにかく、今は気持ちを知っててくれるだけでいいから」

戸惑いはあるけど、大和の気持ちは嬉しい。

「うん、分かった」

「それから、俺にチャンスがあるうちは合コンに行かないで」

気にしていたんだ……懇願するような表情が、可愛い。

頷くと、安堵の笑みに変わった。

「じゃぁ、そろそろプラン2に行かない?」

「そうだね、行こ」

 

大和のデートプラン2は、美しい緑や花を眺めながらのBBQだった。

どうやら事前に予約を取ってくれていたようで、お洒落なウッドテーブルに案内された。

庭園の奥には池があり、雰囲気も最高。

「すごい、いいところだね」

「気に入ってくれた?」

「うん!」

「よかった、しおちゃんってあんまりアウトドアなイメージないからさ」

「どういうイメージ?」

「貸し切りのフレンチレストランでコース料理を食べてる感じ、かな」

わぁ、すごい、イメージそのままよ……。

確かに男性とデートするときは、フレンチとかお寿司とかが多かったかな。

少なくともスニーカーで入れるような店ではなく、ドレスコードが指定されているところが大半だった。

「肉、焼こう。肉」

「野菜も食べなさいよ」

「やめて、俺、ピーマン食えない」

「まだ克服してないの? 体に良いんだから食べなさい」

こんがりいい色に焼けたピーマンを、大和の口に入れる。

その途端、涙目になった彼を見て思わず吹き出した。

「美味しい?」

「意地悪だなぁ、しおちゃんは」

「ほら、お肉食べて!」

「うん、しおちゃんも。食べて食べて」

――不思議。

どんな高級レストランの料理よりも、今日のお肉の方が美味しい。

 

「大和、今日はありがとうね」

「うん?」

「すごく楽しかったし、美味しかった」

「しおちゃんのそういう素直なところ、好きだなぁ」

食事が終わり、腹ごなしを兼ねて庭園を散歩することにした。

そよそよと吹く風が気持ちいい。

「大和はさ……どうして私なの? もっと周りに若くて可愛い子がいるでしょ」

「しおちゃんより可愛い子はいないよ」

「いや、いるでしょ。看護師さんとか」

「俺にとってしおちゃんは特別だから。再会して確信した。しおちゃん以上に好きになる人はいない」

気が付くと、手を握られていた。

「今はまだそういう対象じゃないことは知ってる。それでも、向き合って欲しい」

「大和……」

真っすぐな告白に、再び胸がドキドキする。

「分かった、ちゃんと向き合う」

「ほんと? やった」

頷いた私に、大和は満面の笑みを見せた。

 

 

もっと彼を知りたい

もっと彼を知りたい

「しおちゃん、ごま油ってある?」

「ごま油? そんなのないよ」

「えー、ないの? あれがないと味が決まらないんだよなぁ」

週末、私の家に来た大和が、お昼ご飯を作ってくれることになった。

「じゃぁ、そこのスーパーで買ってくるね」

「待って、俺も一緒に行く」

そう言った大和はガスを止めて、上着を羽織る。

夜勤明けなのに、タフだなぁ。

大和と向き合うって決めてから、一緒に過ごす時間が圧倒的に増えた。

そうした中で、これまで知らなかった新たな一面を発見していく。

例えば――。

「しおちゃん、こっち」

誘導しながら、さり気なく手を繋ぐのが上手だったり。

「1人で先に行かないでよ、寂しいじゃん」

甘えん坊モード全開かと思ったら、

「危ないっ! 気を付けて歩きなよ」

急に男らしさを見せてきたり。

大和の言動に踊らされていると分かっていながら、案外それが嫌ではなく。

むしろ、もっともっと大和のことが知りたいと思うようになっている。

「やばい、財布にお金入ってなかった。しおちゃん~」

理想とは全然違うけど、それさえも楽しいと思えるなんて。

相手が大和だから、なのかな。

 

「ごま油を買いに来ただけなのに、あれこれ買っちゃったね」

「だって、しおちゃん家、調味料が乏しいんだもん」

「しょうがないでしょー、引っ越したばかりなんだから」

スーパーからの帰り道。

他愛ない話をしながら手を繋いで歩いていると、前方に見覚えのあるシルエットが現れた。

「(あれは……いやいや、まさかね)」

そう思おうとしたけど、まさかじゃなかった。

「汐里?」

私以上に、相手も驚いている。

「……新実さん」

 

 

元カレからの……。

元カレからの……。

翌日、新実さんからメールが届いた。

【今夜、会えないか?】

【会う必要はないと思います】

【俺の家にある汐里の私物を返したいんだが】

【それなら、宅配便で送ってください】

【20時に、アルフィルで待ってる】

全然、人の言うことを聞いてないし。昔からいつもそう……。

一方的に自分の言いたいことだけを話して、強引で。

でも、そこが良かったんだ。付き合っていた当時は。

 

終業後、私は新実さんに言われた通りアルフィルへ向かった。

そこは2人でよく行ったBARで、新実さんから「付き合おう」と言われた場所でもある。

あの時は珍しくお酒に少し酔っていて、クールな彼とは思えないほど饒舌だった。

後で聞くと、私に告白しようとして緊張していた、と。

可愛いと思ったのを覚えている。

「来たか」

お店に着くと、カウンター席にいた新実さんが軽く手を上げた。

その奥で顔なじみの店員さんが会釈をしてくれる。

私たちの関係はもう終わっているのに、このBARのこの空間は何も変わっていないようで胸がズキッと疼いた。

新実さんと付き合っていた頃のことを、次々と思い出してしまう。

「荷物をもらったら帰るので」

「そう言わず、1杯付き合えよ」

「お断りします」

「頼むよ、俺の顔を立ててくれ」

相変わらず、ずるい人。

顔なじみの店員さんが「ご注文は?」と聞いてきたので、仕方なく「ミモザ」と答えた。

「こうして会うのは、久しぶりだな」

「そうね」

「そんな怖い顔をするなよ」

そう言って苦笑いをした新実さんは、ロックグラスを一気に煽った。

それから、ふと思いついたようなトーンで私に尋ねる。

「昨日、一緒にいた男は彼氏か」

スーパーの帰り道、新実さんに会ってしまった私は会釈だけしてその場を離れた。

そうするだけで精一杯だった。

「関係ないでしょ」

「汐里のタイプとは、全然違うように見えたけど」

「……」

そんなくだらない話をするなら、もう用は無い。

スツールから立ち上がり、荷物を持って帰ろうとした瞬間、腕を掴まれた。

「俺のところに戻ってこないか」

「……どういう意味?」

「そのままの意味だ。よくよく考えれば俺と汐里が別れる理由は無いだろ。結婚と恋愛は別なんだから」

「ふざけないで」

「至って真面目に言っている。今でも心から愛しているのは汐里だけだ」

何よ……今さら。

どうして今になってそんなことを言うの?

愛しているなんて、付き合ってる時でも言ったことないくせに。

 

 

動揺

動揺

逃げるようにBARを後にして、駅に向かいひたすら歩く。

すれ違う人たちが驚いた顔をするのを見て、自分が泣いていることに気が付いた。

新実さんに掴まれていた腕が熱い。

とっても最低なことを言われたのに、どうしてこんなにも胸が苦しくて頭の中がぐちゃぐちゃするの?

「―――あっ、」

何かに引っかかって履いていたハイヒールが脱げてしまった。

慌てて拾いに行って、げんなりする。

ヒールが根元から折れていたのだ。

「もう、最悪」

呟いたその時、背後から名前を呼ばれた。

振り向くと、こちらに向かって大きく手を振る大和が見える。

その笑顔を見て、再び胸が苦しくなった。

こんなにも真っすぐ自分を想ってくれる人がいるのに、新実さんの言葉に動揺してしまうなんて。

「何やってるんだろう、私」

ねぇ、私、どうしたらいい?

 

次回はこちら▼

理想じゃない恋のはじめ方。(第7話)

 

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